施設内容と特徴
命の危機に瀕している患者さんを助けるためには迅速で的確な救命治療が重要です。当院救命救急センターでは、救急診療に必要な知識・技術を持った救命医が24時間体制で診療に当たり、緊急性の高い処置や手術も搬入とほぼ同時にできる体制が整備されています。
1.外傷
香川県は交通事故がとても多い県ですが、外傷診療は県全体ではまだまだ未熟なところが多いのが現状です。
当院は小さな救命センターではありますが、多発性外傷などの重症外傷にも常時対応できるように、外傷診療にも力を入れています。正直、ハードの面では不便なことも多いですが、ソフト面を強化し、最大限の診療効果を得られるよう日々精進しています。
具体的には、
- JATECや最新の知見をもとに独自の外傷プロトコールを作成し、医師だけでなく、学生や看護師に対しても外傷初期診療の教育・標準化を図っています。
- 初療室での緊急手術にも対応できるよう、麻酔器の配置や手術部との連携を密に行なっております。
- 他診療科、特に脳神経外科、消化器外科、整形外科、放射線科、とも密な連携をとっており、それぞれのカンファレンスへの参加や定期手術や血管内治療への参加など技術研鑽、技能維持にご協力いただいています。
- 頭部外傷については、救命センター内に脳外科専門医が4名在籍し、迅速な緊急手術はもちろん、神経集中治療の側面からシームレスな治療を初療から継続して行えます。
- 県外のいわゆる外傷センターと呼ばれる施設への研修を含め、外傷診療のスペシャリストの育成に力を入れています。
また、現在、香川県初の外傷学会認定施設となるべく、準備を進めており、外傷のスペシャリストが当センターから輩出できるよう、外傷に関わるスタッフ全員が一丸となって取り組んでまいります。
2.神経集中治療
救命救急センターには3~4名の脳神経外科専門医、脳血管内治療専門医が常駐しており、そのうち2名は脳神経外傷学会認定指導医です。これら脳神経外科部隊を中心として、あらゆる重症脳障害患者に対する神経集中治療を行っています。重症くも膜下出血をはじめとする脳卒中、重症頭部外傷、心停止後症候群などを中心に原則初療から退院・転院まで救命救急センターのスタッフが主治医として神経集中治療を行っています。脳外科的手術や脳血管内手術、頭蓋内圧センサー留置術なども脳神経外科スタッフと協力し、安全でクオリティーの高い手術を目指し、日々精進しています。 我々が考える神経集中治療とは、「様々な病態によって傷ついた脳が過ごしやすいように最高の環境を提供し、脳が回 復する手助けを行う」ことであります。この中には
- TTM(Targeted Temperature Management)によって適切な体温で脳を管理する
- 頭蓋内圧センサーを留置して適切な脳灌流圧で脳血流を維持する
- 持続脳波モニタリングを行い、てんかん重積を発見、治療介入する
- 呼吸器管理を行い、脳への適切な酸素供給や脳圧に応じた動脈血中二酸化炭素分圧を調整する
など神経集中治療に特徴的な内容が含まれますが、基本的な気道確保や人工呼吸法、鎮静・鎮痛管理の方法などの集中治療ができなければ、神経集中治療は成し遂げられません。また、各診療科スタッフ、看護師、リハビリスタッフ、薬剤師、臨床工学士、栄養士、歯科スタッフ、感染制御スタッフ、ソーシャルワーカーなど多職種とのコミュニケーション能力も必須です。
神経集中治療を完遂してもすぐに治療効果が表れないこともありますが、回復途中で転院していった患者さんが、数か月後、元気な姿で我々に会いに来てくれることもあります。そのような時は、疲れていても妙にすがすがしく、我々のチームが誇らしく感じ、「よし、またがんばろう」という気持ちになります。我々と同じ気持ちを共有してみませんか。
3.内因性疾患
当救命センターでは、重症度の高い患者様を中心として幅広い内因性疾患の診療にあたっています。具体的には、人工呼吸器管理を要するARDSや補助循環や高用量の循環作動薬を要する循環不全、持続的血液浄化療法を要する急性腎不全、密な薬剤調整が必要な高血糖緊急症、甲状腺クリーゼや副腎クリーゼなど内分泌緊急病態、全身臓器障害を伴う敗血症など多岐にわたります。その他、脳卒中や多発外傷など「外科系疾患」の患者様に対しても積極的に内科的介入を行っています。「神は細部に宿る」という言葉があるように、あらゆる背景の患者さんにおいて綿密な内科的管理が予後を改善する、と信じているからです。また、大学病院という強みを生かして各診療科のエキスパートや他職種とも連携を取りながら「総合的に患者さんを診る」ことを心がけています。救急患者様の生命予後を改善することはもちろんのこと、機能予後も改善させられるようone teamの精神で取り組んでいます。
4.蘇生・集中治療
当施設は県内の数少ない3次救急医療機関であるため、多くの心肺停止症例が搬送されます。その中にはECMOの適応と考えられる症例もあり、そのような患者さんには循環器内科と密に連携し、積極的にECMOの導入を含めた集中治療を行っています。蘇生後はICUにて当科の特徴でもある「脳を守る」ための体温管理療法や脳波モニタリングを中心に、集中治療を積極的に行っています。
集中治療の観点からはエビデンスに基づいたプロトコールを作成し、誰でも世界標準の治療が出来るように、診療の質の向上に努めています。人工呼吸器はもとより、ECMO、IABP、CHDFなどの高度な医療機器を含めた全身管理を日々行っており、他科かかりつけの患者さんが集中治療を要する状態に陥ってしまった場合、当該診療科のDrと協議しながら集中治療を行うこともあります。カンファレンスでは若手医師を中心に日常診療での疑問点を共有し、症例提示をしながら勉強をしていく体制を作っており、臨床工学技士や理学療法士などのメディカルスタッフも参加し協議を行う場を設けています。